きみは今度の不幸をよく正面からうけとめて戦ったね」と教授はいった。
「いや、ぼくはたびたび逃げだそうとしました。ほとんど逃げだしてしまいそうだったんです」と鳥は言った、それから思わず怨めしさを押し殺したような声になりながら、「しかし、この現実生活を生きるということは、結局、正統的に生きるべく強制されることのようです。欺瞞の罠に落ち込むつもりでいても、いつの間に、それを拒むほかなくなってしまう、そういう風ですね」
「そのようにでなく現実生活を生きることもできるよ、鳥。欺瞞から、欺瞞へとカエル跳びして死ぬまでやっていく人間もいる」と教授はいった。