関東大震災の九月一日を記念して、全国に酒無し日の慣例を弘めようとする運動は、確かに一つの敏活なる捉え所であった。多くの酒飲みの心理は理論よりも、むしろこういう暗示によって動かされやすくなっているのである。しかしこの運動のやや心細い妥協点は、これによって同時に三百六十四日の酒有り日を、承認したように解せられることであった。
単に何人にも故障を言わせない自分の勝手というまでで、以前は明らかに悪癖の一つに算えられ、今でも養生とか慰安とか、訊かれもせぬ言い訳をしている者が多いくらいである。それを当然のものとしてわずか一日の酒無し日を勧告したのは、彼らは大悦びだろうが惜しいことであった。
